はにぃとだーりん

【ガンマ1号2号(2号メイン)×ヘド 】

*1号はほんのちょっとしか出ません、すいません。





  親しい仕事仲間なんて今までいなかったから知らなかったんだ。 
 
 
 
 
「何ですか? ダーリン」 
 
 突然仕事中に後ろから嬉しそうな声音の2号に抱きしめられて驚いて固まり、彼の問いの意味が分からず頭が混乱して声が詰まった。 
 
『え……ボク一人で仕事してて……別に2号を呼んだ記憶はない……というかいつの間に入ってきてたの? それよりもだ、ダーリン……??』 
「ヘド博士、大丈夫ですかー?」 
 
 一人でぐるぐる考えて動きを停止していればボクの目の前で手をヒラヒラさせる2号、ハッとしてようやく声を出す。 
 
「えっと……ね、ねぇ2号……」 
「はい、ヘド博士」 
「あのさ……ダーリンって?」 
 
 今まで呼ばれたことのない単語がなぜ出現したのか尋ねてみる。 
 
「え、だって博士がボクのことハニーって先に呼ばれたじゃないですか」 
「へ?」 
 
 2号からの答えが耳から脳へと届き、理解へと変換されるまでに時間を要した。 
 
「えぇ、うそぉ……」 
 
 割いたわりには簡素な否定の言葉しか口から出てこなかった。 
 
「あ! 疑うんですね、博士ひどーい」 
 
 えーんと泣く真似をする声が後ろから聞こえてくる。 
 
「……おかしいな、ボク泣く機能なんて付けてないけど」 
 
 しかもウソ泣きなんて。2号ったらどこで覚えてきたんだろうか、最近見せたヒーローものの映画にでもあったかなと作品のタイトルを思い返してみる。 
 
「ヘド博士ぇ……1号のおカタイところ移ってません? 助手をボクに変更してみませんか」 
「頭の片隅で保留しておくよ……で、2号おまえの映像ちょっと見せて」 
「むー……了解です」 
 
 椅子に座った2号がボクを持ち上げて膝上に座らせ一緒に視聴確認できる態勢をとる。グローブを押してモニターを出し、2号から転送してもらった映像を映し出す。 
 丁度ボクのラボに入室する場面から始まった。室内にはモニターに釘付けでひたすらキーボードを打ち続ける自分の後ろ姿、入ってきたことに気付いておらず作業に集中している部屋の主にどんどん近づいていく。すると小さいながらも聞き慣れた自身の声が耳に入ってきた。 
 
『うわ、ボク何か言っている……』 
 
 呟いてた記憶はない。こんなクセがあったのかと初めて知る。 
 
「ましはまくにになまい……」 
 
 音量を上げて内容が聞き取れるようにしたら単語にもならない言葉の断片をしきりに口ずさんでいた。 
 
『あ…これ…』 
 
 ついさっきまでしていたことを思い出し、自身がぼやく一音の意味に気付くがそれと同じタイミングで2号から「あ、そろそろ博士言いますよ」と教えられる。 
 
「にご…はにいい……」 
 
 その言葉のあとボクに抱き着く動きになったので映像を停止した。 
 
「ほら、ヘド博士言いましたよね」 
「あー……。確かにそうも聞こえるね……うん」 
 
 脳中に浮かぶ数字の羅列を画面に打ち出すとき最初の一音が口をついて出ていたとは自分でも知らなかった、本日発覚したこのクセにはぁと額に手を当て嘆息した。 
 研究室勤務時代のデスクワーク中に時たま怪訝そうに見られていたのはこれかなぁと思い当たる節が浮かんできた。まさか自分の最高傑作に教えてもらう形になるとは…… 
 
「ということでボクをハニーと博士が呼ばれたのでダーリンでお返事した件、納得いただけましたか?」 
「そうだね……一応納得はできたよ2号……けど」 
 
 『無理に結び付けたようにもボクには思えるんだけど』と続きを言おうか思いあぐねていれば、ふと気付いた。 
 
「に……じゃなくてハニー」 
「はい、ダーリン」 
「こうして他愛ないお喋りするのいつぶりかな?」 
「……あと14時間経過したら1週間になります」 
「そっか、大分かまってあげられてなかったんだね」 
 
 顔を上に向ければボクを下向きで見ていた2号と視線が合う、ずっと後ろにいて見れていなかった彼の顔は声とは裏腹に寂しげにしていたのかとようやく知る。 
  ここ暫く落ち着いてた総帥から急かさている案件に突然やっかいなエラーが発生し、対処に追われていた。最近の記憶をたどればモニター画面しか出てこずガンマ達とは最低限の事務的な会話やメンテナンスでしか 対応していない。動き出して間もない彼らとの接触がここまで少なかったのは初めてかもしれない。 
 しびれを切らしたのは感情豊かな2号で、何とかきっかけが欲しかったタイミングで偶然にもそうとも聞き取れる足掛かりを見つけてボクに声を掛けたんだろう。きっと1号も態度には出していないが寂しい思いをさせているんだなと反省する。 
 
「もう少し待てるかなハニー、そしたらいっぱいかまってあげられるから」 
「本当ですかダーリン!」 
「うん……っていうかそろそろこの呼び方終わりにしない?」 
 
 ちょっとずつ恥ずかしさが募ってきたので終いを提案してみる。 
 
「そうですねぇ……ボクとしては博士からダーリンって呼ばれたいので今度は逆で呼び合いませんか?」 
「えぇ……」 
「かまって下さる時だけでいいので!」 
「ぅー……わかったよ……ダーリン」 
「ありがとう御座います、ハニー」 
 
 ボクの了承と早速のダーリン発言に嬉しそうにする2号、抱き上げられモニター前の椅子まで移動して座らせてくれた。 
 
「お仕事終わるのお待ちしてますね、ハニー」 
 
 そう言ってちゅっと頬に軽いキスをして、先程座っていた席にギシリと音をたてて座り直し腕を組んでこちらをにこにこしながら見る2号。キスされた頬に手を当てて顔の熱が上がるのをじわじわと実感しながら早く終わらせるぞと意気込むボクは椅子を回転させて再びモニターと睨めっこしながら打ち込みに励むことにした。今度は口をしっかり閉じることも意識して。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「終わったー! お待たせダーリン!!」 
 
 やっと終了できたことに喜びながら2号のお願い通りに呼んで後ろを振り返り固まった。2号の隣にいつの間に戻ってきていたのか1号もいた。 
 
「お、お帰り1号……」 
「30分前に帰還しましたとお伝えしており、その際お返事頂いています」 
 
 集中していたから上の空で返事していたらしく覚えてない。ここは素直に謝罪しておく。 
 
「あー……ごめん、覚えてない」 
「いえ、仕事に集中されていたのは理解していますので……ところでヘド博士、お尋ねしてもよろしいですか?」 
「……はい」 
「ダーリンと仰ってましたがそれは誰にですか」 
 
 1号の圧が強い。戻ってきて唐突なボクの【ダーリン】発言、しかも2号に対して言ったのは絶対に分かっている。かまってあげなくちゃいけないのは1号も同じだしなと腹を括ることにした。 
 
「ダーリンは2号の希望なんだけど、1号はダーリンとハニー……どっちでボクに呼ばれたい?」 
 
 
 さて1号のお気に召すのはどっちかな