【ブルマ博士+ヘド博士(ほんのりガンマ2号×ヘド有)】
時は午後3時
場所はカプセルコーポレーションのテラス
午前中にブルマ博士から現在手掛けている仕事の進捗状況を尋ねられ、万事順調であることを伝えればお茶のお誘いをされたのでお受けした。
アフタヌーンティーとしては少し早い開始時間だがテーブルには三段重ねのティースタンドがそれぞれの前に支度されブルマ博士には軽食とデザートがのり、ボクの前には好物のクッキークリームサンドがどの段にも軽い山となった状態で用意されていた。
最近カプセルコーポレーションの健康診断に引っかかり、診断結果をブルマ博士経由でガンマ達に知らされ食べる回数と量を結構制限をかけられていたのでこのお誘いのおかげにより久しぶりに満足するまで食べれることに内心で感謝し、1つ2つと口に運び美味しさを堪能する。途中ボクの飲み物で出されているミルクを飲んでいればコーヒーに口を付けていたブルマ博士に声を掛けられた。
「ねぇ、ヘド博士……とある伝手で知ったんだけど、ガンマ達を10億で造ったって本当かしら?」
「!?……ごほっ! げほっげほっ!!」
「ちょっと! 大丈夫!?」
全く予想していなかった質問に驚き、液体が気管に入り盛大に咽てしまう。ブルマ博士が席を立ちボクの後ろにまわり背中を摩ってくれるが、原因は貴女の発言ですよと喉から出かけるがゴクリと飲み込みお礼を述べるだけに留める。
「すみません、ありがとう御座います」
「いえいえ……で、さっきの話なんだけど事実?」
後ろからボクの顔を覗き込まれる形で、興味津々と顔に大きくしっかり書いている彼女に有耶無耶にさせてくれる様子がないことがよくわかった。
金額の話を知っているとなればかなり限られる。その場にいたのはマゼンタ総帥に側近のカーマイン、勧誘されていたボク、数に入れるならばハチ丸もかと思い返す。
所謂口約束で書類として纏められた様子はなく、RR軍の基地内では他の科学者もいたからか車内の会話後には話題にも上がらなかったことだからやはり思い浮かぶ面子はこれしかいない。
伝手候補で有力な総帥達はハチ丸の毒で倒されたのと消息不明……おそらくセルマックスの初撃に巻き込まれたんじゃないかとボクは思っているから有力だが即削除対象 。
ボク本人は超天才の記憶力では話した記憶など微塵もなく、そうなれば……ハチ丸か? と自身が創ったサイボーグエージェントが消去法で浮かび上がってくるがそれこそあり得ない。
ハチ丸はボクが監獄に入る前からずぅっと共にいた一番信頼できる存在で、ボクよりもブルマ博士にそんなことを話す訳がない……というより話すことができないハチ丸ではボクやガンマ以外では会話が成立しないからそんなの無理かと結論付ける。
なら話せないというのであれば覗いたとか? 何を? ハチ丸の記憶データをブルマ博士が覗いたと? 自分の中で思考を巡らせ、はっとした。
先日ハチ丸の記憶容量の空きが大分無かったのでバックアップして空きを作ってしまおうと他へ転送中に博士がボクへの用事で研究室に訪れてきた。
別に悪いことをしている訳でもないからそのまま継続させながら彼女の用件を聞き、少しボクが席を外す際に「このメモリーって見てもいいかしら?」と尋ねられ、特に見られて困るものなんて無かったはずだったと結論が出たので「どうぞお好きに」と返した。
『この時か……』
ハチ丸は見た目とは裏腹に諜報として膨大な容量を持てるようにしてある。そう改造していたけど収監される以前はこまめに移してたので空のままが多かった。何せアジトを移動する回数が多かったからね。消える前に保存を心がけていたのに出所してすぐマゼンタ総帥達とやりとりしたらそのままの流れでRR軍の基地まで連れてこられた。その場所には素晴らしい研究設備がボクの為に準備されているのに心奪われ思いのままガンマを造り、しぶしぶ祖父のデータをベースにセルを強化して造ったりと忙しなくして過ごして疎かにしていた。
更にその後カプセルコーポレーションで働かしてもらえるようになるが、ガンマ2号を復活させるための不確定な目標に追われ現在の状況になるまですっかり記録を放置していたからその時に見られる可能性は大。
ボクの推測により返答を待つブルマ博士に「先日のハチ丸のメモリーからですか?」と鎌をかけてみれば「あら、出所気付かれちゃったわね」と肩をすくめられて席へと戻って座り直された。
テーブルに肘をのせて手指を交互に絡ませその上に自分の顎をのせて彼女は「だって気になるじゃない」とぼやく。
「あの会話聞いたらちょっと興味湧いちゃったのよねー……ダメかしら?」
彼女の問いになるほどと理解する。彼女には2号復活の際にガンマの脳についても説明済だし言っても問題はないだろうから答えることにした。
「あの金額は報酬であってガンマ達の費用はそこまでかけてないですよ」
「そうなの?」
寧ろそれ以上の金額だと思っていたわと言われる。
「最初はそうしようかとも考えたんですけど、総帥のメインはドクター・ゲロが考えた人造人間のデータを元にして強化したセルが目的でボクが目指すものとは端から違ったんですよ。そんな職場に長い間いたい訳ないじゃないですか。ハイスペックにすればそれだけ後の修理の際に必要な工程が増える、RRでしか修理できなくなるなんてなったらそれこそおしまいですからね。まぁ資金が大分底を付いていたのと設備環境の良さに浸りきっていたのは認めます」
一度喋るのを止めてクッキーを一つ口に放り込み何度か噛み砕く。ミルクも口に含めて一緒にゴクリと飲み込んだ後、続きを喋る。
「……ガンマ達を造る費用よりも高額になったのは口止め料でしたね」
「口止め料?」
予想外な答えに不思議がるブルマ博士。
「ええ、ドラゴンボールの説明をして下さった時にお話した彼らの人由来のモノがどこから手に入れたかについて覚えてますか?」
「病院からだったわよね」
「はい、総帥達のガンマ作成の印象はイマイチで、彼らを通しての対応は先延ばしにされて間に合わなかったと言い訳されてもおかしくなかった。ですのでその院長と直談判しました。そのことを他言無用にしてもらうための口止め料でしたがそれなりにボクがレッドリボン……いやレッド製薬で優遇扱いなのを知ってたようで結構な金額吹っ掛けてきましたよ……ま、研究費用として総帥に払ってもらいましたけど」
後々怒鳴り込みにラボに来ていたなと思い出す。青筋を浮かべた総帥とカーマインの様子であればあの院長の行いなど筒抜けだろうから彼がどうなったのかは想像に難くない。
ここの部分は伝えなくてもいいかと口には出さなかった。一息吐いて「お話は以上です」と伝える。
「これがブルマ博士の知りたかったガンマ達についてですがご納得は頂けましたでしょうか?」
「そうね、これに関しては十分よ」
「『これに』?」
「まだ他にも聞きたいことがあるのよ。彼らのね、最近なら「ヘードーはーかーせー」
ブルマ博士の話を遮って空からボクを恨めがましく呼ぶ声が。見上げればガンマ2号がテラスへ降りてくる。
「どうかした2号?」
突然の来訪に何か急な案件でも出たのかと構えるが少し頭をひねればそんな緊急は目の前の責任者じゃなければ出せる訳がないから違う。それに時間を考えると外のパトロールの帰りにここの上空を通って何かしらに気付き降りてきたっていうのが濃厚そうだ。あの声音だとどうやらボクに向けての不満のある素振りの様子。
彼の視線がさっきからある場所を見ているから追いかければどうやらボクが手に持つ好物のお菓子……と皿にまだまだのっている分。そこに気付けば次に言われる言葉が容易に想像できた。
「ボク達だって結構心を鬼にしてヘド博士に控えさせているのに酷いですよブルマ博士!」
「いいじゃない。ちょっと聞きたいことがあるから喋ってもらえるように懐柔するくらい」
なるほどそういう意味でこの山だったのかと今更知った。ボクへ2号が注意喚起してくるのだとばかり思って身構えていたが矛先がブルマ博士とは意外であった。
「だったらボク達も今度博士に好きなだけ差し上げてもいいですよね!」
「あんた達じゃ際限なしであげちゃうでしょ! ダメよ!」
「権限乱用!」
「いいじゃない!! 私結構あんた復活にお手伝いしたわよ!」
まだ2人でぎゃあぎゃあと言っている間に少しでも食べちゃおうと存在を薄くして美味しく食べるのに徹することにした。
残り3個となり指で一つつまめば残り2枚が横からかっさらわれた。「あ」と思わず声が漏れ盗られたお菓子の行き先を追えば纏めて一口で2号に食べられた。
「ボクの……」
「……ヘド博士、食べ過ぎです」
あっという間に貴重な残り2個が平らげられたあと正論を言われ口を噤まざるえないが不満に唇を前に突きだしてとがらせてしまう。持っているので最後かと寂しく思いながら眺めてればそれにも2号がぱくりと食いついた。
「えっ!?」
指も口に含まれて少し暖かい口内にどきりとして慌ててクッキーから離したら腰を屈めて食いついていた彼が背筋を伸ばして咀嚼数回後にゴクリと飲み込んだ。
「ごちそうさまです」
ペロリと舌を出して舐めとる仕草を見て、次に一瞬でもその舌が入っている口内にいた指を凝視。
瞬時だったが暖かかったなと思い浮かべた熱に体温の上昇を自覚、特に顔に集まると判断し急いで手で隠す。
「博士、今日のお夕飯は少なめなの覚悟して下さいね。当番はボクなので」
ガンマ2号の言葉にだからわざわざ口出しに降りてきたのかと得心が行った。まだ引かぬ熱に頬を隠したままぶんぶんと勢いよく頷いて了承を伝える。ボクの動作にふふふと小さく笑うと彼は手を伸ばしてくる。少し体が強張り手の行く先を注視すれば指先が口元を拭ってくれた。
「急いで食べるからですよヘド博士」
自覚していなかったが食べカスがあったようで我が子のような存在に親が子にする対応をされて違う熱がまた顔へ集中する。今度のは羞恥によるもの。上書きされた熱に隠すのを止めて不貞腐れた顔で視線を逸らしながら「ありがと」と感謝を述べる。「いいえ」となぜか嬉しそうに聞こえる2号の声にちらりと目を向ければ視線がぶつかった。外さないまま見せつけるように触れた指先を舐めるガンマに釘付けになる。無意識に何か言葉を掛けようと口を開きかけた時、大袈裟な咳払いをしたブルマ博士。たちまち我に返りボクも事態、状況を変えようと数度咳払いした。凄く小さい舌打ちがボクの最高傑作から聞こえた気がするが彼女には届いていないことを願う。
「ごめんなさいねー、ガンマ2号くん。まだ博士とお話したいのでもう暫くお借りするわね~」
「そ、そうなんだ。またあとでね2号」
ボク達の言葉に頭の後ろに手をやり「ちぇー……」と渋るその姿、これは結構強引にボクを持ち帰るつもりだったから雰囲気作りしかけたんだなと見当がつく。
先程中断したブルマ博士の話の内容が気になるからこちらとてまだ帰らされてはたまらない。ので素直にお帰りしてもらおうとガンマ2号にしゃがんでと頼み、距離があった彼の頭が撫でれる範囲になった。いい子いい子とすればいつものように機嫌が良さそうにふにゃりと笑うのを確認してほっと安堵する。
「仕方がないですね……では先に家に戻ってますね」
「うん、見回りお疲れ様2号。またね」
ふわりと浮かび上昇していくガンマに手を振って見送った。すっかり豆のように小さくなった彼の姿を確かめて彼女に向き直り「失礼しました」と謝罪一つ。
「別にいいわよ。彼らの大事なヘド博士をお借りしているから何かしらあるかなと予想はしていたからね」
「まさかあんた達のそういう空気を見せつけられるのは予想外だったけどね」とポツリ零されて恥ずかしくなり少し体を縮こまらせながら俯き「それはホントに申し訳なく……」としか言えなかった。
「で、中断されていた話の続きなんだけど……」
2号が来る前に話されていた内容がようやく聞ける。ボクに顔を近づけるブルマ博士の目は金額の件よりもこちらがメインだったのか生き生きした雰囲気が伝わってくる。
「まさに今ガンマ2号がしてた行動よ!」
「2号が……してた行動?」
「食事よ! しょーくーじ!!」
そうか確かに。ボク達研究職ならどんな願いでも叶える神龍が行った飲食のいらないエネルギーで動いていたガンマ達の可能になったそれに対しての探求は絶対に起こる。ボクだって多少なりとも調べたから。
けど誰にも発表する場がない調査だったのでまさか披露できるとはこちらとしても願ったりな状況にじわじわとボクも興奮してきた。ああまだまだ語ることが多いからお茶会は終わりそうにないな。