【ガンマ1号2号×ヘド】
「豆まきしようか」
世間の行事をこの家でもしようというヘド博士からの提案に夕食の後片づけをしていたガンマ達、1号はテーブルを拭いていた手を止め、2号は皿洗いで博士が持ってきたくれた食器を手渡されシンクへ置こうとした矢先にその発言を受け驚き動きを止めて創造主をじっと見てしまう。急な停止にまだ置いていなかった皿たちがバランスを崩し大きめの音をたててシンクに張った水へ飛沫を上げて入っていった。
「うぉっ、っとと」
「に、にごう……?」
「だ、大丈夫です! 音は大きかったですが割れもヒビもなしです!」
慌てて洗剤で泡立つ水面に手を入れ中を確認して心配そうにしているヘド博士へ伝える。
「……そんなに驚くような内容、ボク言ったかい?」
ダイニングキッチンなのでこちらを見たまま動かないガンマ1号に視線をチラリと向け博士は尋ねる。自分に質問されたとワンテンポ遅れて気付いた1号が拭いたままの姿勢から正して答えた。
「その、博士は御自身の研究が第一で年中行事には興味がないというのがわたし達の考えでしたので……」
「なるほど……確かにその通りだ」
ガンマ1号の返答に間違いはなく正解だと頷くヘド博士。
「キミたちと暮らす前のボクなら間違いなく1号の答え通り一切興味が湧かず無視していたよ。けどね……」
一度話すのを止めて1号へニコリと笑い、視線をガンマ2号へと移し再びニコッと笑みを見せたあと博士は続きを喋る。
「神龍の力を見た後じゃあね、こうした伝統行事が絶えず続いているのにもそれなりの意味があるんだと思えて……ほら、節分だったら無病息災」
「無病……」
「息災……」
「そ。無病は2人はあまり関係ないかもだけど息災はさ、『災いもなく元気であること』だから」
照れくさくなったのか博士が頬を指で掻きながら続ける。
「ヒーローとして創造したけど家族だからやっぱり平和な日々が欲しいなーってこう……ずっと、ね? ま、まぁ願掛け程度だけどしないよりは「ヘド博士」
いつの間にかガンマ1号がダイニングからキッチンへ、そしてヘド博士のすぐ後ろに来ていて声を掛けた。
まったく気づいていなかった彼はびくりと肩を揺らして振り返ろうとしたのだがその前に背後から抱きしめられた。
「え、えと……いちごう?」
抱きしめられた意味が分からず軽く混乱していれば正面からも抱きしめられる、今度はガンマ2号だ。2人に挟まれた状態で抱きしめられ動けない博士、前にいる2号に体重をかけてふぅと軽く一息、そして問うてみた。
「2号まで……どうしたの?」
「だって博士がボクらとずーっといたいって」
「うん。勿論だよ」
「とても嬉しいプロポーズです」
「ぷっ、プロポーズ!?」
ガンマ2号の発言には素直に嬉しく受け止めたが1号の言葉は想定外過ぎて目が見開かれ聞き直す。
「共に生涯過ごすとなれば配偶者としての意味が適切かと。そうなればヘド博士の発言はプロポーズの認識で間違いないはずです」
「1号その解釈最高。博士からの初プロポーズ頂戴しました!」
「ちょ! ボクは家族だって言ったでしょ!!」
思いがけない最高傑作2体の意見に困惑するが急いで訂正しようとする。
「家族とは同じ家に住み生活を共にする、配偶者および血縁の人々であると簡単にですが調べました」
「配偶者、つまりは「あー! もういい! この話は長くなりそうだから一旦終わり!!」
博士を納得させるため語ろうとした2号の口を手で塞ぎながら声を張り上げるヘド。唐突な叫びに肩を上げ下げして呼吸をし最後に大きく深呼吸を一つ。塞いでいた手を離し彼に預けていた重心を1号へと変えて今度は静かに話しかける。
「……その解釈はまた今度話そう。とりあえずは豆まき……しないの? するの?」
口を尖らせて2人に伺う博士。穏やかに笑い掛けながら同時に答えた、「します」と。
「豆まきってさ、撒いた豆を拾って食べなきゃだから殻つきじゃないとやりづらいよね」
撒き終えた豆、今回ヘド博士たちが使用した殻付き落花生を回収したあとの殻剥きを3人でしている最中にポツリと呟いた博士。
「そうですね、本来ならば畑の肉と呼ばれるほどの食糧が使用されるのですからあまり地面に落とすのは忍びなく思います」
博士の意見に同意だと頷くガンマ1号。2号は何も返すことなく黙々と殻剥きに向き合っている。いつもの彼なら1号以上に多い言葉で話してくれるのにどうしたのだろうと不思議がって眺めていれば突如開いていた目をより開き「あっ!!」と大きな声を出した。
「どうしよう博士!」
「何!? どうしたのさ2号」
動揺するガンマ2号に釣られてうろたえそうになるヘド博士だが次の言葉に冷静になり寧ろ失念していたと気づかされる。
「ボク復活から計算したらまだ生まれて1年経っていません」
「あぁー……確かに、うんホントだ」
「そしたらボクの分はなしってこと……ですかぁ」
明らかに気落ちしてしまうガンマ2号。それを見て大袈裟だなぁと考えるが初めての豆まきで締めとも言える内容が彼だけできないのは確かに寂しいかと思い直しこう言ってみた。
「ほらガンマ2号、ボクのを半分こしよう」
ヘド博士が食べるのは24粒、だったら半分あげても十分な量はある。
「え!? で、ですが博士、年の数だけ豆を食べるのは1年間の幸せを祈る意味があるっていうじゃないですかぁ……」
創造主の幸せが短くなるのではと心配する2号にやさしい子に育っているなと思いがひしひしと身にしみてしまう博士。
「祈るだけなんだから平気だよ。それにもし短くなるのならその分2号、キミがボクを幸せにしてくれればいいじゃないか」
だからほら、と食べるように博士が豆を摘まんで「あーん」としてくる。大好きな博士からの強烈な一撃を見事に喰らった2号は今のを永久保存できるように厳重に記録してからようやく行動に出ようとしたが一足遅かった。
豆を摘まむ博士の手首をがしりと掴んだガンマ1号が2号へと差し出されていた豆を指ごと口に入れたのだ。
「いぃぃいい1号っ!?」
及びもつかない普段の1号ならしないだろう動作に驚きが隠せない博士の声は大分上ずっていた。それはガンマ2号も同じだったようで目を皿のように丸くして、口もあんぐりと開いて動きを止めていた。
「……ヘド博士」
「ひ、ひゃい……」
行った当人である1号は豆と博士の指を堪能したあとちゅっと軽い音を出しながら口を離す。そして博士の手を自分の両手で優しく包みこみ静かに声を掛けた。主の名前を呼んだだけなのに相当な色香を醸す傑作に充てられて呂律がうまく回らず不明瞭な返事をしてしまう。
「貴方を幸せにする権利をわたしにもお与え下さい」
縋るような眼差しで博士に切に願う姿はあまりに神々しく直視できず目を細めてしまう。その仕草に1号は思案してしまうほどに困惑させてしまったのかと勘違いをする。更に声を出そうとしたらようやく動けるようになった2号が喚いた。
「1号ひどいー!! ヘド博士がボクにあーんしてくれた分食べるなんてー!!」
「うるさい2号」
「そりゃあやかましくもなるよ! 誰のせいかって? そんなの1号に決まってるじゃないか!!」
「1号のばかー!」と言いながらガンマ1号をぐいぐい揺さぶる2号に僅かばかりの時間はさせたいようにさせていた1号だったがすぐに立ち上がりガンマ2号の頭部にアイアンクローをして攻守逆転した。それでもぎゃあぎゃあ喚く2号に徐々に声量が大きくなる1号という構図を見た博士は先程の性的な魅力を振りまいていた1号にドキドキしていたのが霧散していき思わず吹きだして笑い出す。
「「……博士?」」
意図せず笑う互いが大事にしている存在に間抜けた顔をして彼を見てしまう。
それに気付かず一頻り笑い未だにひぃひぃと尾を引いてほほを緩ませる博士、ようやく話せるようになって彼らに伝えたのは「うっかりしててごめんね」と謝罪一つから始まった。
「3人でボクの分けようか。ボクを幸せにしてね2人とも」
愛しい博士からの言葉に不満はなく両者即座に「勿論です」と返した。2号は抜かりなく貰う際に「ヘド博士、もう一回、今度はちゃんとボクにあーんをして下さい!」とおねだりするのは忘れなかった。