起床問題

【ガンマ1号とガンマ2号→ヘド ガンマ2号視点】

*ヘド博士の研究室が出る前に考えた作品です。







 ぷすー…ぷすー…

 ここはヘド博士の寝室。寝る時のみでしか使用しないのでベッド以外何もなく殺風景な部屋である。
 徹夜が続いた後の博士の寝起きが非常に良くないらしい。いつもなら1号が起こしているが今日はその1号から起こしてきてくれとのこと。
 「どういう風の吹き回し?」と尋ねれば「もう諦めたんだ……」と明後日の方向を見ながら呟いてた。
 何の意味だろうとは思ったが折角のチャンスを棒に振る気はない。なので足早に博士の寝室にやってきたボクはベッドのヘリに頭を寄せ、マットレスが沈んで博士が起きないようにギリギリで浮かせながら寝息を立てて眠る博士を動画モードで録画していた。

『眠っている博士の寝顔も寝息も可愛い……』

 博士の寝息が止まることなく続いているのでよく博士の体形の人で言われる睡眠時無呼吸症候群じゃないことに安堵する。

「はぁぁ……博士尊い……っとヤバい起こす時間だったんだ」

 本来の目的を忘れてヘド博士の寝顔鑑賞に没頭するところだった。肩を揺すって声を掛ける。

「はーかーせー、ヘド博士ー起きる時間ですよー」
「んぅ、ぅぅ……あと5分……」

 もぞもぞと動いて枕に顔を埋めながら小さく睡眠延長の申し出をする創造主。
 ボクとしては博士の意見を優先したい。しかし前に1号がその発言に対し素直に従った際凄い困った顔を博士がしていたなと思い出す。なのでここでの正解はすぐにでも起こしてあげる……なんだけど少ぉーしばかり思いついたことをしてみたくて再び博士に声をかけた。

「ヘド博士ぇー、今起きてくれないとボクからキスしますよー……ちなみに博士からしてくれたらあと20分は寝てもいいですけども……」

 『なーんてね』と最後まで言うつもりだったのに途中で言葉が止まった。
 その理由は簡単、塞がれたのだ。博士からのキスで。普通のキスじゃなく博士からのディープキスで。
 予想外過ぎて固まったのは仕方ないだろう。数回ボクの口内を荒らしたあと博士は離れた。

「これくらい……やったからあと……30…分……」

 抑揚のない声でそう言ってぼふりと枕に頭をダイブさせて寝息を立ててしまった博士。つい先ほどの行為をしていたのがウソのようにあっという間に夢の中へ旅立ってしまった。
 されたボクはと言えばあまりの衝撃に神経回路がついていけず、一旦整理しようと博士の寝室から退場した。扉から出てきてすぐ目の前の通路で固まった思考を再度復活させようと立ち止まる。

「何をぼんやりしている2号」
「……いちごう」

少しして1号がやってきて声を掛けられた、予定の時刻になっても来ない博士を見に来たに違いない。

「ヘド博士は?」
「ぁー……博士……うん、起こそうと思ったんだよ。ホントだよ!?」

 博士にされたことを思い出し、少し慌てて1号に言う。
 1号は眉間に皺を寄せたり、イライラするような素振りをすることなくボクをジーッと観察するように見た後ボソリと言った。

「……お前もされたか」
「……も?」

 「お前『も』」の単語に反応したボク。いつもなら頼まれたことを遂行できなければ叱っているはずな1号からまさかのお咎めなし 。
 そういえば起こしに来る前に「もう諦めた」という意味深な発言があったじゃないか。
 ここでカチリとパズルのピースが入ったような音が聞こえた気がした。まさかと思いながらおそるおそる1号に確認してみる。

「ヘド博士から……チューされた経験あり?」
「……」

 沈黙を貫かれ視線がそーっと逸らされた。え、それって肯定と取っていいってことですか? つまりされたのか。しかも今回以外は起こし役って1号だったよねぇ……

「よーしガンマ1号、ちょっと表出ない? 拳で語ろうよ」

 苛立ちながらも笑顔で片割れに提案してみた。拳は握り締めて彼に見せつけながら。

「待て2号、常にという訳ではないし不可抗力の結果だ」
「不可抗力?」

 彼の言い分に聞き返す。抗う前にされたのは同じなので確かにと納得し動きが止まる。それから話は続けられる。

「博士に改善ももちろん求めた。しかしダメだったんだ」

 額部分に手を当て要求したときの博士を思い出したのか深いため息が長い時間出された。

「記憶がない行動だからあの方はそんなことはしていないと言い張られるし、証拠の映像を撮って見せたりしても嘘だ捏造だと言われてお怒りになってしまう始末……わたしのみでは対処不能だと結論を出さざる得なくなった」
「だからこの度ボクにお願いしたと」
「あぁ……」
「このままではわたし達以外が起こしに来て同じことがされた場合を想定する限り……」
「そうだねぇ……ロボットならスクラップまっしぐら。人だったら……どうなってるかな?」

 愛しき主の可愛い行動がボクらのみ適用ならまだ許容範囲だがガンマ1号が言い出す事態が現実になったらされた被害者ではあるが無事で済ますわけがない。無意識だがしてしまった当人も該当するだろう。
 博士にお仕置きするのはいい薬になると思うが、他者が絡むのをシミュレーションしただけで架空の者に嫉妬の感情がありありと出てきそうになる。これは相棒も同じだったからこそこちらにも意見を求めたくて起床の手伝いをさせたに違いない。けど根本はそこじゃないと思うので提言してみる。

「徹夜続きのときだけなんでしょ?」

 コクリと頷くガンマ1号に人差し指を立ててそこだよと一言。

「ヘド博士の徹夜を止めれば万事解決じゃない?」

 ボクのいい考えに絶対賛同してくれると思ったのに出てきたのはがっかりだと言わんばかりの表情をして肩を落として深く息を吐き出した姿。

「なら聞くが2号、おまえは我々の強化に生き生きとして頑張る博士を止められる自信があるのか?」

 片割れの主張に早速推測してみた。最高傑作だと褒めてくれる大好きな博士がガンマだけを考えて作製してくれる……しかも楽しく……うん、止めれるわけないな。
 どうあがいても無理だと気づきガクリと膝をついたボクに「わたし達には無茶が過ぎる難題なんだ」としみじみ言うガンマ1号に謝罪を述べた。

「じゃ、じゃあどうしたらいいのさ?」
「だからこそお前にも体験してもらったんだろ」

 超天才な創造主に作られた脳みそでも何という難しい問題。2人して通路で唸り思いついたことを発してはみるが片方に説得されまた悩むを繰り返し続けた。
 結局寝坊して起床されたヘド博士の絶叫が聞こえてくるまでボクたちはいろいろと考えたが答えはでなかった。






「ひとまずはさ、今度からボクの博士起こす当番増やしてよ」
「なぜだ?」
「……ガンマ1号、何回博士にチューされたのかな?」

 ボクの言いたいことに気付いたようでしぶしぶと了承した傑作の片割れににんまりと笑顔を差し上げた。
 何も知らない可愛い博士は今回もボクらへの良いアイデアを思い付き製作に熱中して徹夜まっしぐらである。楽しみだなぁ。