運命の

【ガンマ1号2号→ヘド】




「ガンマさんこれ読みますか?」 
 
 休憩をしているRRの兵士と話していてそろそろ休憩が終わる頃合いなのだろう。立ち上がる時にガンマ2号に一冊の雑誌を差し出した。 
 
「おー、いいの? 悪いね」 
「もう読まないんでどうぞどうぞ」 
 
 そう言ってその場を後にして持ち場に戻って行った。 
 2号が手に入れたのは大衆向けの週刊誌 。ヒーローに対しての資料はヘド博士から色々と提供はされていた(主に彼の私物だ) 
 しかし俗世間への知識は十分というには足りなかった。世の中は常に動いている、流行だと学んでいたことがもう古くなった情報になっていてもおかしいことはない。スーパーヒーローが古い堅物なんてありえないと2号は考えていた。ペラペラと速読するように捲りデータとして自身に移していく、と途中あるページで止まる。 
 
「運命の赤い糸?」 
 
 
 
 
 
「ヘド博士ー、今お時間貰えたりしますか?」 
 
 本日博士がいるであろうラボに入るとすぐに2号は声を掛けた。 
 
「ん、どうしたガンマ2号」 
 
 目当ての人物は丁度小休止するようで、助手をしているガンマ1号が博士の前に彼のお気に入りの甘味とミルクを置いた所だった。 
 
「えっと……左手お借りしてもいいですか?」 
 
 右手にはクリームを挟んだ黒いクッキーを持ち一口咀嚼しながら「ん」と言いつつ2号に左手を見せた。 2号はまじまじと眺めつつ博士の左指を念入りに触り何かを確認し、「本当に見えないんだな……」と呟き、それから諦めたように左手を離して博士に礼を述べる。 
 
「満足したのか?」 
「えーと、もし持っていればなんですが……赤い導線とかってありますか?」 
「1号、どこかにあったか?」 
「置いた記憶があります」 
「少しばかり頂いてもいいですか?」 
「好きなだけ使えばいいさ。1号渡してくれないか」 
「わかりました」 
 
「2号こっちだ」 
 
 1号に呼ばれ後ろを付いて行く2号 。
 
「お前、一体何をするつもりだ?」 
 
 2号の意図は分からないが博士の指示通り赤い導線を渡しながら顰めた顔で問う1号 。
 
「1号も良かったらやる?」 
「質問を質問で返すな」 
「悪い悪い、あのさ……」 
 
 少し距離が離れているのとヒソヒソと喋るガンマ達。話の内容が分からず気にはなるなと思いながらもぐもぐと食べ進めていくヘド博士。最後の一枚を口に含んだ時に再び2号が傍へやってきた、今度は2号の斜め後ろには1号もいる。 
 
「博士また左手お借りしていいですか?」 
 
 嫌がる理由もない為先程と同じように2号に左手を向けた。 
 
「「失礼します」」 
「ん?」 
 
 2号だけではなく1号も同時に動いた。2人で博士の左手に群れたので隠れた自身の手が何をされているか把握がしにくく軽い混乱をする博士、落ち着こうと残っていたミルクを飲んでいれば作業は終わったようで同時に離れた。
 
「……? これはどういう意味?」 
「運命の赤い導線です」 
 
 博士の左手の小指には2号が欲しいと言っていた赤色の導線が巻き付けられていた。それも2本だ。
 1本は今答えた2号の左小指、ではもう1本はと言えば視線を移せばいつものポーカーフェイスで佇む1号の左小指に巻き付いていた。 
 
「だって博士の見えない赤い糸の先がボクらじゃなくて他の人だなんて嫌なんですよ」 
「んな……」 
「それにヒーローにはヒロインがいますよね。前に博士に見せてもらった作品には『俺の運命の人』なんてヒロインに言っているシーンがありました。」 
「赤い糸の先にいるのは生涯を共にする相手って話だし、それと一緒だよね」 
「(ボク・わたし)は相手が博士でないと嫌です」 
「先手必勝です」 
「見えない知らない相手に博士は渡さないから」 
 
 ガンマ達の熱烈な言葉に博士の顔は真っ赤に染まった。何か言わなければこのまま飲まれてしまうと今の状況ではあまり動きの良くない頭脳を何とか働かせる。 
 
「~~っ……ボク、だってスーパーヒーローが、い、いいんだけど……」 
 
どうにか紡げたのは「ヒロインでは格好がつかない」という否定の答え。しかしすぐに新たな答えが返ってきた。 
 
「あ、別にそれで大丈夫だと思いますよ。」 
「スーパーヒーローの隣にいるヒロインだってヒーローとして活躍する話なんてたくさんあるんですから。博士はスーパーヒーローとスーパーヒロインの大活躍しちゃって下さい」 
「流石はヘド博士、ますます手が離せなくなりますね」 
 
 そう言って1号が繋げている左手の甲に軽くリップ音を鳴らす。 
 
「ちょっと1号抜け駆け!」 
「先程も言ったはずだろ、先手必勝と」 
 
 駄々をこねるように1号に異議を申し立てる2号をさらりと正論で返す1号 。
 そんなやりとりを止めるのさえ億劫になった博士は残っていたミルクで喉の渇きを潤すのだった。 
 
 
 
 
 
 
「っていうか何で糸じゃなくて導線なの?」 
「え、糸じゃ脆すぎるし丈夫そうなのは博士の手が怪我したら嫌だからこれくらいならって」 
「そっ、か……ご配慮感謝するよ」