2号復活話

【ブルマ視点】




CC内の自身の研究室で作業をしているとバサリと何かが崩れ、ガチャリと金属が落ちる音がした。音の出所を見れば適当に積み重ねていた雑誌の山が一つ崩れていた。

「やっだ、ドラゴンレーダーじゃない」

 雑誌を何冊か退ければその下から出てきたのは自分が発明した代物、前に7つ揃えた時に後で片付けようと置いてそのままだったようだ。落ちた際に裏返ったようで画面が下になっているのを持ち上げる。

「あら?」

 緑の画面を見ればボタンが接触して起動したのか黄色の光が点いていた。ドラゴンボールの波長をキャッチしているということだ。これくらいのことで故障するとは考えられない。何度かスイッチとダイヤルを操作したり凹みがないかなど外観を確認、中の部品がどこか抜けている可能性もと上下に振って異音がしないか耳を澄ましたが無かった。

「どういうこと?」

 故障でないならばドラゴンレーダーは正常に作動していることになるのだが、計算が合わないじゃないか。前回の願い、ピッコロの潜在能力を引き出すなどの願いをしてからまだ1年も経っていない。石ころになりレーダーにも映らない筈なのに今目の前の画面にはしっかりとある。何かの異変でもと思案した時にピッコロと話した内容を思い出す。

「アップグレード!」

 セルマックスとの激闘の後に色々と事情を聞いた時に言っていた神様の神龍の改良。願いの内容以外に復活の時期が早まることなど誰が予測できようか。壁に掛けているカレンダーを確認すればあの時から今は8カ月経過している。

「一体どこまで進んでいるのかしら……」

自分のスマートウォッチから登録してある博士の名前を探しながらポツリと呟いた。

『ブルマ博士!お願いがあります!!』

 セルマックスの事件の後急遽雇用することに決まった人物、ドクター・ヘド
 雇用するにあたり簡単にだが経歴を調べた。幼い頃に両親は他界、若くして博士号を取るも数多の研究室を短期間で移動している経歴がある。どうやら上手くやっていけなかったようだ。刑務所服役経験有が新しく書かれていたことが気にはなりつつも今は保留している。
 一般的にはマッドサイエンティストと呼ばれる部類の科学者、しかもあのドクター・ゲロの孫には驚いた。血筋といえばいいのか人造人間の研究にも熱心だからこそ彼のお願いの内容はすぐに気づけた。

『こちらに来て早々に図々しいお願いだとは理解しています……ですがどうか『別にいいわよ』
『……へ?』
『ここでの長期滞在に研究スペース、機材、それから……あ、費用もかしら。必要なんでしょ?』
『は、はい……』

 普通の人が聞いていたら目を白黒させてしまうんじゃないかという無茶苦茶なお願いの内容だがすんなり了承をした。彼らのお別れを見てしまったから。
 雇うと決めた時にいつかは言われると予想はしていたが、口約束したその日にとは驚きはした。

『復活できる見込みはあるの?』
『復活……』

 私の質問に眉間に皺を寄せながら『だいたいは……』と言葉を濁らすドクター・ヘドに詳しくはその時聞かなかった。

「あれから8カ月……」

 その後のドクター・ヘドの才能には舌を巻いた。元々自身の皮膚の改造をしていたという実績がある、少しくらいの衝撃なら耐えられるし銃弾も通さない(撃たれた痛みはあるので動くのは少し時間がかかるらしい)などの効果を付与できる彼にとって、肌を若くするという女性にはありがたい効能をそんな程度と一蹴するだけあり1週間も経たずにサンプルを渡された時には目を疑った。寧ろ効果が強すぎて売り物にするにはもう少し薄くしなければなどの調整に追われたことを思い出す。
 美容部門の売り上げが1年も経たずに急速な右肩上がりを見せ、本人も様々な要望案を打てば響くという仕事ぶりでこなしていた。材料費と製品の効果が高すぎるのはそろそろ改善してほしいと考えていれば研究室のドアが開く。

「何の用事でしょうか?」

 今考えていた本人が割とすぐにやってきた。椅子に座っている私が手招きすれば入口からそのまま近寄ってきてあと2,3歩ほどのところで止まった。

「この前の要望に更に追加要素ですか?」

 どうやら呼ばれたのは次の製品に対してのことだと思っている様子。
 私が違うと否定すれば、「じゃあ新しい製品の話ですか?」とまた検討違いの問いをしてくる。

「商品の話じゃないわ、貴方がここに来た時に私にお願いしていたことは順調かしら?」
「それは……まぁ何とか形にはできてます」

 彼は8カ月前と同じように眉間に皺を寄せながら答えてくれた。

「まだ1年も経たないのにうちの会社に大きく貢献したこと、それから超優秀なガードマンの働きも信用に値すると私は評価したわ」
「ありがとう、御座います」
「だからこれから話すこと……よく聞いて欲しいの」

 この世に存在する願いを叶えてくれるドラゴンボールの話
 彼自身は言い伝え、都合のいい御伽噺の眉唾物だと思ってた。だが実際に存在しそれを見つけることができるドラゴンレーダーの話まですると期待の眼差しを持ち耳を傾ける。

「ただし何でもという訳ではないわ」

 持ち上げてから落とすような言い方になるけれどこれは大事なことだ。

1年以上経過したら復活できない

同じ願いを2度は叶えられない

神龍で復活した人を再度生き返らせることはできない

神の力を大きく超えた願いはできない

「……ブルマ博士、神の力を超えるというのは?」

 やはり気になるのはそこかと彼の目を見ながら私は答える。

「ここで言うなら人造人間……無から生まれた存在のことね」
「っ!」

ドクター・ヘドの目が見開かれ、絶望の色が濃く見えたがすかさずに続きを喋る。

「全てが人工物であれば、よ。私が見た貴方の人造人間、ガンマ1号はそうは見えなかった……だからこそ、この話をしているのよ」
「……ブルマ博士の言う通りです、確かにボクの最高傑作のガンマ達は人工物以外にも使用している人由来のモノがあります」
「ならきっと……」
「それと共に蘇らすことははやり神の力を超えてしまうのではないのだろうかと、ボクは思っています」

 言い難そうにしている彼に声を掛ける。

「ドクター・ヘド、貴方の言う人由来のモノというのはもしかして……」

 私の目を逸らさずに合わせながら皮肉交じりな笑いを浮かべながら彼は言う。

「人の脳です」

 これ以上のことを聞いてもいいのか考えていればゆっくりとだが話し始めてくれた。
 最強の人造人間の開発が最初の目標で、マゼンタの話を聞き宇宙で最強の人造人間への開発へと規模を変えた彼。宇宙で最強、それは彼の好きなスーパーヒーローが活躍する世界観。
 スーパーヒーローとしての素質は人工知能だけで補えれるものではない。ではどうすればいいのか悩んだ彼の構想は人の持つ感情を人工知能で学ぶのでなく人の脳そのものに委ねることだった。
 スーパーヒーローだって時に感情で動く、人工知能のように最適解ではないことをする 、それでも最終的にはヒーローたらんとする姿勢、そこが彼はとてつもなく魅かれるのだと。だから人の脳をメインに人工知能を補助として合わせたと彼は言う。

「ガンマ1号は2号に比べると人工知能での補いを多くしてます、逆に減らしたのが2号なんです」
「……一つ聞きたいわドクター・ヘド」
「……脳の出所ですよね」

 彼の説明を途中で切り、どうしても聞きたかったことを口に出す前に切り出された。

「レッド製薬が投資している病院で人の身体の一部が腫瘍に包まれているのを摘出する患者がいたんです。だいたいは歯や髪の毛などが多い病例なんですけどその患者の腫瘍には脳もあったそうで……。必要なタイミングで摘出手術の話が耳に入ってどうにか脳だけでも譲ってもらえないかと話をつけました」

 その脳自体は不完全なものであったが、培養する為に必要な細胞は手に入れられたのでそこから促進剤で成長速度を速めてガンマ達に使用したのだと彼は言う。

「最低限の人の喜怒哀楽を学ばせ、あとは人工知能の学習機能で補う形で完成をさせました。あの時はセルマックスの完成まで先が長かった。だからその間に彼らは学び、スーパーヒーローになれると予想していました。
 結果は予想以上でした。それぞれに個性が生まれたんです、やはりボクの考えは間違っていなかった……同じガンマは作れない。だからこそ彼らはボクの最高傑作になったんです」

 目を輝かせて自身の傑作の人造人間を説明する。しかしすぐに顔を曇らせ悲痛な顔になる。

「なのにボクがセルマックスを作ったせいで2号が犠牲になってしまった……脳も共に消失してしまったんです……」
「だからこそドラゴンボールで「ボクが作ったガンマは神から見たら許されますか?」

 神の力を大きく超えた願い、人の脳を持つ全身無機質で造られた存在はどうなのかはっきり言って博打である。だが、今のこの機会を逃せばそれさえもできない。後悔で埋め尽くされるくらいなら行動を起こすべきだと思った。

「許されるかどうか試せばいいわ」
「……え?」
「ただ失敗した場合のことも考えて他の願い方も考えておきなさい…いくつもの可能性は考えられるでしょ、超天才のドクター・ヘド?」
「へ、えっ……?」
「何なら私も考えてあげるわ。それでも不服ならブリーフ博士だって巻き添えに「ちょっ、ちょっと待って貰っていいですかブルマ博士……」
「何よー」

 うじうじ悩むのは苦手なのよ私は。と顰めながら苦言を申せばドクター・ヘドは困ったような顔をしている。

「どうして、そんなに親身になれるんですか? ボクはそこまでされるような価値なんて……」
「だって私は雇用主で貴方は従業員。さっきも言ったでしょ、会社に貢献できているって。なんてとか言わない! される価値は十分あるわよ。貴方の悩みを解消できる手段があるならそれを解決してしまえばより会社に貢献してくれるでしょ。ね、ドクター?」

 二ヤリと笑いながら問えばポカンとした顔をして私を見たかと思えば笑い出した。

「あ、貴女は凄い人ですね。ブルマ博士」
「あら、ありがと。……で笑ってすっきりでもしてくれたかしら?」
「お陰様で。……ボクは、ボクと1号は2号に会いたいんです。会って謝りたいしこれからも3人でいたいんです。どうか協力を……お願いします!」

 深々と頭を下げる彼に「じゃあまずは願い方の案とドラゴンボール集めね」と提案した。






「ほぉ……で、2人でいい案は出たのか?」

隣で腕を組みながら私の話を聞いていたピッコロが結果を聞いてくる。

「んー……そうね、そんな所かしら。結局博打になっちゃったけど」

 復活できる期限内にドクター・ヘドは生き返らせたいガンマ2号のボディを完成させ、使用している研究室にガンマ1号と共に待機させている。
 ドラゴンボールもボディ制作時にガンマ1号に集めさせ7つ揃い、準備が整った。
 今からドクター・ヘドが神龍を呼ぶ。私とピッコロは少し離れた所で見届け人だ。

「ところで、なぜ俺も呼ばれたんだ」とピッコロに聞かれたので、「だってピッコロがいたらオマケ、貰えそうじゃない?」と前回の神龍を思い出してニヤッと笑いながら答えた。




「ほぉ……で、2人でいい案は出たのか?」

隣で腕を組みながら私の話を聞いていたピッコロが結果を聞いてくる。

「んー……そうね、そんな所かしら。結局博打になっちゃったけど」

 復活できる期限内にドクター・ヘドは生き返らせたいガンマ2号のボディを完成させ、使用している研究室にガンマ1号と共に待機させている。
 ドラゴンボールもボディ制作時にガンマ1号に集めさせ7つ揃い、準備が整った。
 今からドクター・ヘドが神龍を呼ぶ。私とピッコロは少し離れた所で見届け人だ。

「ところで、なぜ俺も呼ばれたんだ」とピッコロに聞かれたので、「だってピッコロがいたらオマケ、貰えそうじゃない?」と前回の神龍を思い出してニヤッと笑いながら答えた。

「出でよ神龍!! そして願いを叶えたまえ!!」

 教えておいた掛け声をドクター・ヘドが言い、周りの景色が黒く染まり7つの球が光りだし神龍が出てきた。

『さぁ、願いを言え。どんな願いも3つだけ叶えてやろう』

「ボクが作ったガンマ2号を生き返らせてほしいんだ!」

 1つ目の願いを叫ぶ彼を眺める。これで成功すれば私たちの苦労は何だったんだと言えるけれど……
 少しの沈黙の後、神龍から神の力を大きく超えた願いでありそれは不可能だと返答された。
 「アップグレードした神龍でも無理なのか」と呟くピッコロの声が横で聞こえた。でもここまでは想定内よ。

「博打だと言っていたが、どうするんだブルマ」

 ピッコロが私に問いかける。

「……一度で叶えようとするからダメだったのよ」
「2回に分けて願いを叶えるの」

 私の言葉にピッコロが驚く。
 ドクター・ヘドを見れば通信で研究室に待機しているガンマ1号と連絡を取っている。

「あのね、ピッコロ……人が死ぬと魂が抜けて体が軽くなるって一説があるの」
「は? 何だその古臭そうな話は」
「その通り、これを発表したのは100年以上前の人物よ。発表した時は疑問視した声が溢れた研究だったそうよ、実際は発汗による水分の消失が濃厚」
「何故今そんな話を……」
「だから言ったじゃない。結局博打になっちゃったって」
「じゃあ、願いを変える! ボクが造り直したガンマ2号の身体に前の2号の脳を入れて欲しい!」

 通信が終わったのか改めて願いを伝える声が聞こえた。人造人間としての復活が無理なら脳だけ、人工物でないなら可能な筈だ。

『たやすい願いだ』

 神龍の言葉に気付かずに息を詰めていたようでふぅと重い息を吐き出す。

「次の願いに行けるかがここで分かるわ」

 ドクター・ヘドはガンマ達のメンテナンスを自分でしていた、その時に測定した彼らの重さをしっかり覚えていた。2号の身体を作り直す際に寸分違わない素材を使用するつもりだったようでドラゴンボールの話をした際はまだ欠けた場所が多かった。
 費用を出してあげると言っていたのに気が引けて自分とガンマ1号の給与から出していたというから呆れた。突然の大きな出費は会社の経理が可哀そうだから私のポケットマネーで先行投資という名目で好きなだけ使って期限内に仕上げなさいと言い聞かせて今日という日を迎えれたのだ。

「今の願いでガンマ2号の重さに誤差があり私達が望んでいるものだとしたら成功よ」
「……その望んでいる重さはどのくらいだ?」
「魂の重さっていわれている21グラムよ」

 昔の研究が今になっても一般の人の記憶に残るようなものなんて、何らかの根拠があるからじゃないかとこの一説に賭けた。
 三度の通信をしているドクター・ヘドの背中を見ながら結果を待つ。

「本当か!?」

 願いをした時よりも大きな声が彼から発せられた。こちらを勢いよく振り返り見てくる目は憂いがない、口は今にも泣き出すんじゃないかとばかりに震えている。

「早く2つ目の願いを言いなさいな!」

 泣くのはまだ早いと背中を後押す。滲み始めていたのかゴシゴシと乱暴に目元を拭い、神龍と再び向き合い彼は叫んだ。

「2号の脳に2号の魂を戻してほしい!!」

『たやすい願いだ』

「~~っ! 勝っっったー!!」

 2つ目の願いが叶った時にドクター・ヘドは大慌てで研究室に向かって行った。
 神龍が『まだ願いが一つ残ってるぞ』とその後ろ姿に伝えていたが彼は気にすることなく室内へ入ってしまったのでとりあえず少し待ってくれる?とこちらでお願いして今に至る。
 成功したことへの込み上げる嬉しさに思わず叫んでしまうのは致し方ないだろう。
 隣のピッコロは「お前は持っているな」と口元を片方上げて笑っている。

「で、あいつの願いはこれで終わったが残りの1つはどうするんだ? また美容に使うのか?」

 ピッコロは前回の私の使い方を見ているから残り1つは譲ってもらうつもりなんだろうと確認してくる。

「いーえ、お祝いも兼ねて残り1つもドクター・ヘドに譲ってあげるわ」

 これだけ助力したんだから今後の彼からの新たな美容製品に大いに期待しておこう。

「連絡しても大丈夫な頃合いかしらねー……」

 そろそろ神龍が何か言いたそうにこちらを見ている。隣にピッコロがいるからあまり失礼をしたくないようで大人しくはしているがそわそわしているのは分かる。スマートウォッチでコールすれば十回目でようやく出てくれた。

「お、お待たぜ……じま、じだ……ぐずっ」

 画面に映ったのは目を真っ赤に腫らして鼻水を啜るドクター・ヘド。

「おめでとうドクター」
「ありがとう御座いま゛ず……」
「ヘド博士ー、また顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってますよー」
「確かにやつの声と口調だな」

 私も少しばかりガンマ2号を見たけれど会話はしなかったから声は分からないが、ピッコロは知っているようで無事に復活できたことを実感する。

「感動の再会中で悪いんだけど、願いがあと1つ残っているのよ」
「それなら、残りはどうぞブルマ博士が使って下さい」
「言うと思ってたわー。けど私もね、お祝いとして貴方に使ってもらいたいのよ」
「え、でも……」
「急なことだけど貴方だって他にも願いはあるでしょ? いつかはしたかったこととか」
「いつかは、したかったこと……」

 私の言葉に引っ掛かることが思い浮かんだのか悩み込む。

「早めに言ってねー、神龍が困り顔してるから」
「あ、あの! じゃあ……ガンマ達に飲食ができるようにすることって可能ですか?」
「飲食?」

 ドクター・ヘドは最強の人造人間、戦闘重視でガンマ達を造り、飲食は必要のないエネルギー充電タイプで造り上げた。しかしマゼンタから伝えられた悪の秘密組織なんて存在しないのであればこれから共に過ごすなら食事を一緒に取りたいんだそう。

「ブルマ博士のご家族と一緒に食事させてもらった時にいつも以上に美味しかったので、いつかガンマ達にもできるようにして食事したいなって……」
「いいじゃないその願い!」

 照れる彼に私はいい案だと褒める。

「じゃあその願い言うわね、3つ目の願いはガンマ1号と2号に食事ができるようにして欲しいの!」

『…その願いは1日に1食分であれば叶えることは可能だ。それ以上は叶えられない。』

「十分よ!…けど食事ができるようになるんですもの。味覚も付くでしょ?」

『え? い、いやそれはまた別の願いになる。それは付かない』

「食事を取るだけで味が分からないなんて寂しいことないわよ! ね、ピッコロ」
「そうだな……確かにオレも水しか飲めないがどこの水が美味いなど好みがあるからな」

『ピッコロ様がそう言うのでしたら……』

 やはりピッコロを呼んで正解だったと自身を褒めてあげたい。渋々とだが神龍が折れた。

『3つ目の願いは少しおまけして味覚も付けて叶えた……ではピッコロ様、さらばです』

 願いを全て叶え終え神龍は再び光になってドラゴンボールに吸い込まれるように消え、ボールは天へと舞い上がりそれぞれ散り散りに飛び去って行った。再び明るくなった空を確認して、通信したままだったドクター・ヘドに声を掛ける。

「3つ目の願いあっさりと叶って良かったわね」
「はい、本当に……本当にありがとうざいます!」
「「ありがとう御座います」」

 画面はドクター・ヘドしか見えないが彼のお礼の後に2人分のお礼も声も聞こえた。
 通信を終えて切った後、体を伸ばしていいことをしたと気分が晴れやかになる。

「住み込みでも別に私は良かったんだけど…やっぱり3人で暮らしたいかしらね」
「……まだ何かするのか?」

 ピッコロが何をするつもりだと訝しげに私を見る。

「やーねー、いいことしかしないわよ私は」

 後日、お祝いその2としてドクター・ヘド達に西の都の端っこにある人気のない社宅を彼ら用にリノベーションしたのをプレゼントした。






【ガンマ2号視点】

『さよなら 博士』後復活2号




  声が聞こえたんだ。とても大事な人の声が

「……ぅ、にごう、起きて……2号」

 手を握られている。
 この温もりをボクは知っている。
 もう得られるはずのない大事なものだったと覚えている。だってボクは……





 視界が色づく。最後に見た記憶は灰色の視界だったはずなのに今は色鮮やな世界へと変わっている。
 その目に初めて入ったのは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってボクを見上げている人。ボクの手を握りしめて、心配そうな目を向けてる。

「…2号、ボクのこと……わかるか?」

 彼をずっと見ていたからかおずおずと声を掛けられた。握っていた手にはさっきよりも力が入る。
 外すことなくそのままの状態でボクは入っていたカプセルから出ると彼に跪き視線を合わせた。何も喋らないボクに彼の瞳には心配の色が濃くなっている。握られたままの彼の手の甲を口元に近づけて小さく音をたてて口付けた。

「……大っ事なヘド博士を忘れることなんて絶対にありえませんから」
「っ! に、にごう?……ホントの本当に?」
「やだなーヘド博士。貴方の最高傑作の片割れのガンマ2号只今戻りました!」

 まだ握られたままだから片腕で博士を抱き寄せる。

「……こうしてまた博士に触れてお話できて最高の気分です」
「~~っ!! に、ご、ぅぅ゛…お、がえりぃ…ありがとう…ごめんね゛ぇ……」
「あー、また泣いちゃって博士ったら……驚いたら止まってくれるかな?」

 頬に手を添えるボクを見る博士と視線が絡む。その時に博士の通信ユニットから音が聞こえてきた。

「にご、待っ! ブルマ博士から連絡!!」
「すぐ済みますからまたせちゃいまん゛がっ!?」
「!?」

 博士にキスしようと近づこうとしたら顔面を思いっきり鷲掴みされた。ギリギリと締めつけられ、押されている感じもあるから博士から距離を少しでも取ろうとしている。

「おかえり2号、よく戻ってきてくれた」
「い、1号……た、ただいま」
「ヘド博士、大丈夫ですか? とりあえずこれでお顔を拭いて下さい。」
「ありがとう1号……」

 見えないけどティッシュを出すような音の後に鼻をかむ音が聞こえた。

「まだ鳴っていますから、こちらは気になさらずお取り下さい」
「う、うん」
「あーヘド博士ぇー……」

 するりと博士の体温が離れてしまうことを惜しむ。

「1号……そろそろ外して欲しいんだけど」

 まだ顔を掴んでいる1号の手をタップする。

「戻ってきて早々に目に余る行動とは感心しないな2号」

 お小言を言いいながら離れる1号の手。「顔変形してない?」と聞けば「そこまで力は入れてない」と言われたけど、そこまでの力は入ってたと思うんだよねボク。
 博士が少し離れた場所で先程連絡をしてきた相手と話しているのを確認した。聞き耳を立てていた訳ではないが、鼻を啜る音と涙声が聞こえたので「ヘド博士ー、また顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってますよー」と横から茶化すように声を掛けたら後頭部を1号に叩かれた。

「2号」
「ん、なぁに? 1号」
「改めておかえり……帰ってきたこと博士と共にオレも嬉しく思っている」

 まだ屈んでいたボクの肩に手を添えてそう言ってくれた1号にボクは笑ってお礼を言う。

「約束守ってくれてありがと1号」

 ボクの言葉に少し口角を上げて笑う1号を見た。

「んで、腕に持っているのってボクのマント?」
「あぁ……あの時のだ」

 手渡されたのを広げれば使用するには難しいほどの有様だ。

「これは……もう使えないかぁ……」

 残念だなと呟けば「安心しろ博士が特殊繊維を発明している。それと合わせれば元に戻る」と1号からの言葉。

「さっすが【ボクの】ヘド博士!」
「そうだな【わたしの】博士は大変に素晴らしい」

 互いの主張に空気が少し変わる。屈んでいたのを立ち上がり、ニコリと1号に笑いかける。

「……ねぇ1号」
「何だ2号」
「ボク負けないから」
「その言葉そっくりそのまま返そう」

 内容を知らなければニコニコと笑い感動の再会に話が弾んでいるような光景に見えるかもしれないが実際は火花散る状態。しかしそれに気付かないで近寄る人の気配が。ここには人は1人しかいないのですぐに一触即発めいていた空気を散らす。

「2人共! いい知らせだぞ!」
「どうしましたヘド博士?」

 近寄る博士の嬉しそうな顔に何を言われるのか興味が増す。

「お前達も食事ができるようになるんだ! これから一緒に食べれるんだよ!」

 唐突な博士の言葉にボクはどうしてなのかよく分からず首を傾げた。1号は分かっているようで「本当ですか!?」と驚きつつも喜びを露わにした様子だ。

「2号は後でちゃんと説明するよ。けど飲食できるようになるのは本当だからね」

噓じゃないからねと念を押して博士はまだ繋がっている通信を眺め、向こう側から「3つ目の願いあっさりと叶って良かったわね」と女性の声が聞こえた。

「はい、本当に……本当にありがとうございます!」

 凄く嬉しそうに博士がお礼を言うからボクらも続けてお礼を述べた。そうして通信を切るとボクらを見上げる。

「さて、お前達は初めての食事は何を食べたい?」

 好奇心を隠すことなく聞いてくる博士を見てからチラリと1号を見れば彼もボクを見ていた。

「1号も?」
「同じ意見になるだろうな」

 ボクらの会話に博士は「何が食べたいんだ?」と再度訪ねてくる。

「「博士の好きなあのお菓子を一緒に食べたいです」」

 見事被ったボクらの言葉に博士は嬉しそうに笑う。

「じゃあ早速用意して一緒に食べようか! その時に2号に今日のことを説明するからね!」

 博士がボクらを残して部屋から出ていく。1号が博士の後を追おうとするがボクが声を掛けた。

「ねぇ、1号」
「何だ」
「これってボクの都合のいい夢じゃないよね?」
「は?」

 ボクの質問に1号の声が低くなる。

「だってさ、博士と会えてお話して抱きしめて……1号にもこうやっていつもみたいな会話が出来て、更に急に食事ができるようになるとか都合良過ぎて……知識で知ってた夢ってやつみたいだなーって」
「2号……」
「あ、でもボク夢なんて見たことないからやっぱり現実だよねこれ」
「そうだ現実だ。間違ってもそれは博士の前で言うなよ」
「勿論、博士が泣く姿を見るのはさっきので十分だからね」

 次博士が泣くのならベッドの上がいいなーと思ったがこれを1号に言うとうるさそうなのでそこは飲み込む。会話はそれで終わりにしてボクらは手伝いをする為部屋を後にして博士を追いかけた。

余談だけど博士が虜になるのが頷けるほどお菓子は美味しかった、味覚凄い。